Alcedo Atthis Architect


太陽光の熱を蓄えて逃がさない 《パッシブソーラーハウス》

『住みよい民家再生のための工夫』 季刊「民家」2011年春号に掲載した当社代表執筆コラムです(一部加筆)。
昨年6月に竣工した移築再生民家「むくり屋根の家」を事例に、省エネルギーで快適な住まいを造るための工夫を解説しました。

ソーラーハウスとは、太陽の熱や光を暖房・給湯・発電などに利用する住宅のことです。太陽光エネルギーを利用する際に、機械設備を用いるのがアクティブソーラーハウス。用いないものをパッシブソーラーハウスと呼びます。
そしてダイレクトゲインとは、太陽光で直接床や壁などの建物の構造自体を暖め、暖まった床(蓄熱層)等からの輻射熱で室温を安定させるというシンプルな仕組みです。成立の条件としては「日当たり良好」「断熱性能と適度な気密性能」「熱容量の大きな素材の使用」があげられます。

【パッシブソーラーハウス】

民家の魅力に「土壁・木材などの自然素材」「高い天井・広い屋内」「伝統的な木組みや力強い小屋組み」などがあげられる反面、暗い・寒い・使いにくいなどの指摘を受けることもあります。

これからの建築には環境負荷の低減や自然との共生が、より一層求められるため少ないエネルギー消費で室内を快適に保つ工夫が必要です。

そうした試みの一つとしてパッシブソーラーハウスのダイレクトゲインを盛り込んだ再生事例を紹介します。


         右:建具のほとんどと欄間・床板などを再利用し、元になった建物の風情を生かした廊下
廊下
南外観 左:南から見た外観。太陽光を取り入れるため、開口部を大きく設けている。

解放的な家を一年を通して快適に

今回紹介するのは「民家バンク」を介して譲り受けた茨城県竜ケ崎の商家を栃木県那須塩原に移築再生したものです。
主な要望は「古民家の良い点を生かす」「現代的な機能を盛り込む」「立地条件と日照と通風を生かす」「那須山への眺望」でした。


そこで、建物全体の断熱性能を向上させたうえで、各部屋を仕切る壁を取り払い、南側に大きな開口部を設けダイレクトゲインパッシブソーラーハウスとしました。

開放的な一室空間に居間・食堂・台所をまとめ、那須山を望む北側の座敷・寝室とは建具の開閉により必要に応じて連続し、古民家らしい小屋組みを生かした屋根裏部屋とも吹抜けを介して繋がります。


蓄熱層をテラコッタタイルで仕上げた居間とキッチン
上:蓄熱層をテラコッタタイルで仕上げた居間とキッチン。かつての民家に普通にあった「土間」と現代の「床」の機能を併せ持つ。


下:全体構成を表す【断面図】と【平面図】
断面図 平面図
【各部分の詳細】

輻射熱を利用する

[蓄熱]

南側の床を大きな開口部から取り込んだ太陽光で暖めます。

熱容量の大きな素材であるコンクリートをテラコッタタイルで仕上げ、熱を蓄えます。



右図:テラコッタタイル床部分断面スケッチ(リビング)
仕上げは耐光性のある素材なら可(石・土など)
テラコッタ床部分(リビング)

[断熱]

一度暖めた建物が容易に冷めないように断熱します。

床下は発砲性断熱材を用い基礎断熱とし、屋根(グラスウール200mm)や壁(羊毛断熱材110mm)、そして開口部(ペアガラスの入ったアルミサッシ)なども同様に断熱します。

「容易に冷めない」は年間を通しての室温の安定を意味しており、通気・遮光の工夫とともに「夏は涼しく」過ごすことが可能となります



右図:板張り床部分断面スケッチ(座敷)
板張り床部分(座敷)

[薪ストーブ]

輻射断熱であるストーブは室温のみならず床・壁・天井・柱・梁などの建物自体を暖めます。

冷めにくい素材で出来ているのでストーブを消しても急速に室温が下がることがありません。
薪ストーブ左:居間に設置した薪ストーブ

私たちが主に手掛ける30坪から40坪の住宅では、最大出力8,000kcal/時の薪ストーブにしているが、この家は約43坪なので、10,100kcal/時の薪ストーブ(ダッチウエストの「ラージFA265」)を採用した。

パッシブソーラーと組み合わせることにより、燃料である薪の消費も最小限に抑えることが可能となる。

[保温]

建物に熱を蓄え、保温するため、晴れ間のない時も薪ストーブ一つで過ごすことが可能となっています。
屋内は平均に暖かく、冬期でも一部屋に籠らず活動的に過ごせるようになりました。ストーブを消して就寝しても、翌朝の室温が15℃程度になることを想定しています。

高い独立性を求められた玄関横の寝室にはリビングのストーブ上部に溜まった暖気が換気ダクトを通して送り込まれます。
夕方、ストーブを焚くと同時に暖気を送り始めると就寝時には充分暖かくなっています。


[開口部]

防犯と防風を兼ねた雨戸とペアガラスを使用した断熱性の高いアルミサッシに加え、北側は障子の断熱性能にも期待し、冬の強い季節風に備えています。
屋根部分
上図:屋根部分断面スケッチ

伝統的な民家の仕組みを生かす

夏、古民家の土間に入り涼しいと感じた経験が多くの方にはあると思います。
土間だけではなく漆喰・木などの熱容量の大きな素材にもそうした効果が期待できます。またこうした素材は調湿性も高く、夏は高温多湿になる日本の家屋に適しています。

さて、すでにお気づきかとは思いますが、季節の移り変わりに配慮した開口部の配置や通風・採光の工夫、素材の特徴を生かした使い方などは伝統的な民家で普通にみられる通りです。
自然の仕組みを生かした住まい方の工夫を、私たちのこれからの住まいづくりにも生かしてみてはいかがでしょうか。

《建て主の声》
念願の古民家を定住用に移築再生し、今は休日を中心に住み始めています。設計では、日の光を十分採り入れるなど郊外の自然を活かし、都会暮らしに慣れてしまった私どもでも、「終の棲家として、穏やかでホッと安心して暮らせる」ように知恵を絞ってくださいました。


パッシブデザイン解説 パッシブデザイン事例(パッシブソーラー実践住宅) も併せてご覧ください。



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