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■立正寺:庫裡耐震補強と修復■ 歴史的建造物の文化財登録を視野に入れた耐震補強と長寿命化 休息山立正寺は甲州市の塩山と甲州街道の等々力交差点とを結ぶ古くからの街道に位置します。森に囲まれた大きな屋根が魅力的な地域景観の象徴的な建築です。 正確な年代は不明ですが建物自体の創建は江戸時代です。築100年は軽く超えています。長い年月の間に何度か増築や間取りの変更が行われ、玄関の位置や開口部の位置などが変わっていました。また土台の沈下や柱の傾きなどが見られ、開閉が困難な建具なども見られました。 使用不可能な状態の部屋もありましたので、建て替えといった意見もあったようですが、住職の熱意で改修による長寿命化案を採用しました。 また改修では破損部分の修復にとどまらず「耐震補強」「断熱・気密性納の向上」「エアコンの設置や照明器具の新設による居住性向上」などをはじめとする建物の価値向上を図りました。 また痕跡調査・類似事例調査を行い玄関の位置を創建時の妻入りに戻し、後補の増築部分などの撤去を行っています。 当初の現状調査・耐震診断から始まり、改修設計、工事完成まで途中の寄付金集めの期間も含めて足掛け5年のプロジェクトでした。今後は文化財登録を申請する予定となっています。 |
上:南面外観。妻面の構成は一枚残っていた古写真を参考に再現しました。建物前面の水路は公図を基に自然石積で復元しています。 |
上:復元した水路。 |
上:鉢と水路。 |
上:外観。屋根は茅葺形状を残したカラー鉄板葺きですが、入手困難な材料であること、ガルバリウム鋼板による再現が困難であることなどから、変形個所の修復を行い再塗装にとどめています。 水路の自然石は工務店の調達の他、主に寺境内の石を集めて積んでいます。玄関正面の延段の石材は檀家さんからの寄付が混じっています。 |
上:玄関。大戸の形状は痕跡調査と類似事例による。開口部をささえるまぐさは損壊が激しく新材に取り換えました。 |
上:玄関吹抜け見上げ。土台の腐食により軸部が不同沈下を起こし、壁と組み物との間に隙間ができていました。ジャッキアップにより土台の新設と軸部の修正を行い、壁を塗り替えています。 |
上:下足入れと沓脱。下足入れと靴脱ぎのための敷板。数年前に伐採し保管していた敷地内にあった欅を製材して利用。何枚かあった板状の材木の内、形状の適したものを採用しています。 |
上:玄関・受付け間の障子。向かって右手の障子は通り抜け土間と入り口の土間を仕切るためのもの。左手の障子を開けると受付の部屋があります。中央部分は格子を見せるために裏表を変え、藤色の和紙を貼りました。 |
上左:玄関から大広間を見る。 上右:大広間。 |
上:大広間。大黒柱向こうの大阪障子は寺の敷地内にある別の建物から転用したもの。すべてを解放でき、厨房と一体化した空間となる。 |
上:大広間。壁面の照明器具は当工房オリジナル。 |
上:大広間・台所建具を閉めた様子。 |
上:大広間・台所建具を開けた様子。 |
上:中座敷の板絵襖。 |
上:中座敷の板絵襖。 |
上:中座敷の板絵襖。 |
上:中座敷から奥座敷を見る。 |
上:奥座敷。 |
上:奥座敷。床の間の壁は文字曼陀羅の掛け軸に合う濃紺の砂壁で仕上げました。 濃紺色は類似事例が案外少なく、思うような色がなかなか出ず、左官職人が何度も試し塗りを行って決定しました。 |
上左:大広間。 上右:住職室・書院。書院の障子は調査の過程で小屋裏から発見されたもの。修理を施して再使用しています。 |
上:住職室襖。住職室に至るには光の射さない中廊下を抜け、いったん前室に入ります。前室は東側の広縁越しに穏やかな光が入ります。明るすぎず暗すぎない仕上げが望ましいと考えました。壁を白い漆喰で仕上げているので、襖には藍色を加え白い部分の面積を抑えています。 |
上:住職室。住職室の床の間は以前の改修の際に、右手半分が収納となっていました。今回別室に収納を設けることで旧状の床の間に復原しています。痕跡調査を行い壁は以前と同じ大津壁としています。書院窓からの障子越しの光で色が浮かび上がります。大津壁の黄色と相性が良いこと、またお寺のシンボル的な花である藤にちなんで、書院の障子には藤色の和紙を張りました。 |
上:住職室・板襖。改修以前は玄関わきにあった収納の戸。歌舞伎の文様が描かれていて面白いので住職室前室の収納に転用しました。 |
上:住職室・板襖詳細。どうした由来のものかはわかりませんが、紙は剥がさず再使用しています。 |
上:右手は台所から見る広間と玄関。左手や奥が受付を兼ねた食堂。 |
上:台所の厨房器具。 モールテックスによるワークトップ。新しい工法のため左官屋さんの長男が東京で講習を受け、試し塗りを繰り返しながら完成させています。竃の色に近い濃い灰色で磨き仕上げとしました。 |
上左:広縁。創建時は外縁であったと思われますが、後年ガラス戸を建て込んで内縁となっていました。
床・天井とも断熱材を設けて新たに板張りで仕上げました。床仕上げは畳レベルと同一としています。ガラスの建具の機密性能は若干劣りますが、趣を尊重して古いまま再使用しています。
上右:広縁。天井は奥行き感を出すため廊下と並行に竿縁天井としました。曲がり角の天井に見える照明器具は以前あったものを手直しして再使用しています。 |
上左:受付。玄関わきの受付スペースとしてもつかわれる食堂。この部分は漆喰塗の予定でしたが、工事途中趣のある中塗り土で仕上げることにしました。昭和時代の古建具と調和した空間となりました。 上右:受付・土間。奥のガラス戸の向こうが厨房。部屋の中心部に古い間仕切りの柱が残る。 |
上左:受付・土間。通用口から玄関土間に抜ける通り抜けの土間。冬場は寒さに弱い植物の避難場所となる。突き当りの建具をあけたところ。式台の板材も地所内の欅板を利用した。 上右:受付・土間。通り抜け土間から新居につながる勝手口を見る。 |
上:大広間のステンドグラスパネル「龍王」。大広間西面の開口部。改修以前の玄関のあった場所。裏鬼門と呼ばれる位置に相当する。厄除けを兼ねて龍のステンドグラスパネルを設置しました。西日が当たるとタテガミの色が赤く染まる。お寺の象徴的な花である藤の花、曼殊沙華の他、蓮の花、水連の花をモチーフにしています。制作期間は約一年を要しました。 |
上:大広間のステンドグラスパネル「龍王」・障子建込時。上記パネルに障子をはめ込んだところ。障子は雲のメタファーとして採用。吉獣である龍は通常雲の陰に潜んでいる。これは雲間から姿を現したところ。 |
上:大広間のステンドグラスパネル「龍王」・FIX窓周り。 |
上左:玄関ホール。 上右:玄関ホールの吊り下げステンドグラスランプ。土間空間は照度を落とし、必要なところを重点的に照らす計画としています。土間に入って立ち止まる人の足元を照らすコードペンダントと、上がり鼻のブラケット照明。 |
上:玄関ホールのブラケットランプ「King-Ryu」。西面、裏鬼門の龍と相対するブラケットにも潜む龍のシルエット。 |
上:大広間のステンドグラスブラケットランプ。広間東面のブラケット。こちらも藤の花にちなみ藤色のガラスを使っています。背面の壁は大阪障子の組子との調和を図り細幅の板張りとしました。 |
上:東廊下のステンドグラスブラケットランプ。廊下柱から突出する腕木は雨の日の洗濯物干し。庫裏は基本的に生活の場でもある。生活の場を美しく造ることが建築の力。 |
上:東廊下のステンドグラスブラケットランプ。 |
上:客室2のステンドグラスランプ。僧侶控室とその照明器具。右は僧侶控室の続き部屋とその照明器具。正面の障子は庭先の樹木を見るために中央部分を上げ下げ式の障子としました。東に面した日中の直射光の入らない落ち着いた部屋になりました。床の間に見立てて一部の壁を青く塗っています。壁は光の条件で様々な表情を見せる。 |
上:客室2のステンドグラスランプ。照明器具のガラスは壁に合わせた色合いとした。こうしたことが可能なのがオリジナルデザインのよいところです。 |
上:住職室前室のステンドグラスランプ。白い壁・板戸・青系の襖に対して暖色系のガラスを採用しました。 |
上:住職室のステンドグラスランプ。書院障子に合わせて紫系のガラスを使用しています。 |
上:中座敷のステンドグラスランプ。15畳間の和室を照らす照明器具。一灯で照度を確保するためモックアップを作成して確認した。アクセントにさわやかな青いガラスを使い、奥に向かうにつれ1本、2本、3本と細長く青いガラスを増やしています。 |
上:前の間のステンドグラスランプ。 |
上:中座敷のステンドグラスランプ。 |
上:奥座敷のステンドグラスランプ。 |
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