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■立正寺:耐震補強と修復のプロセス■ 定点撮影等による改修プロセスの記録 木造建築の耐震補強には様々な方法が考えられます。事例の立正寺の庫裏は江戸時代の建築であり現在一般的な木造とは異なる部分があります。大きくは鉄筋コンクリートの基礎がない、筋違がないといった点です。 今回はそうした課題をクリアーすべく耐震診断促進法に基づく「木造住宅の耐震診断と補強方法」によりました。 概ね下記のようなフローで計画しています。 1:調査 既存のプランや断面を調査し、耐震要素を確認したうえで耐震診断を行います。 2:耐震補強方針立案 上記の耐震診断に基づき耐震補強を検討します。この時、改修後の使い勝手やデザインも含め建物のあるべき姿を検討します。歴史的な建築物であれば古い部分をどこまで残し、新しい要素を加えて行くのかといった事も検討を行います。 3:補強方針・デザイン・工事費等がまとまり、耐震補強計画の判定を受け、合格後着手となります。 今回の場合は以下に示す図のような位置に補強壁を設置し、開口が必要な箇所は仕口ダンパーを採用しています。 |
左:調査平面。 創建時からこれまでの長い時間の中で増築や改造が行われてました。改修にあたって、文化財登録を視野に入れていましたので増築部分を取り除き、後世の改造部分で現在使われていないスペースなどを現在の使い方に合うように計画しました。 |
上:改修後平面。赤色表記は壁(軸部)の補強箇所を示しています。 |
上:建物の現状調査を行い所見を記した資料の一部(妻面)。 |
上:改修計画 檀家総会に改修の内容を説明するための資料の一部。 |
上:妻側立面の着工 住職と一緒に棟梁に工事の目的や内容、傷んでいるところなどを説明。土台の腐食で柱が沈下し梁が曲がっている。蟇股・肘木などの組み物も沈下して壁に隙間が空いてる。肘木の下には謎の小窓がついている。 |
上:妻面の土壁を落としたところ 様子を見ながら少しづつ歪みを矯正。柱の沈下・腐食部分の根元を根継する。謎の小窓は痕跡調査から後付けのものと判断。入り口のマグサも取り換えることにする。 |
上:妻面の柱の修復の様子 まぐさの取り換えも無事終了。 |
上:小舞竹取り付け。枕木の借り受けも無くなる。 |
上:中塗り土の段階 年度末期限の水路復旧工事のため、足場をいったん外す。 |
上:足場撤去 外壁塗・屋根の塗装を終えて南側の足場を外したところ。 |
上:内部の補強工事 足元を固めるために、床を撤去し、基礎石を固定したのちに土台・足固めを設置する。そのために内部の土を漉き取ったところ。 |
上:基礎石補強の様子 基礎石の不動沈下やずれによる柱の変形を防ぐためにコンクリートで固定する。 |
上:金属ブレース 文化財の耐震補強の方針は必要最小限であること(ミニマムインターベーション)。また将来取り外しが可能なこと(リバーシビリティ)。登録文化財を目指すので同様の方針を採用。古くからあった壁は土壁の耐震性を補うために金属ブレースを付加する方法を採用。 |
上:構造用合板と仕口ダンパー 新たに設ける壁は現代の素材による。 |
上:中座敷の仕口ダンパー 壁が設けられない開口部は仕口ダンパーによる補強。 |
上:軸部の耐震補強終了。 |
上:六葉(ろくよう) 年季の入った代物。まだまだ使う。 |
上:鰭(ひれ) 破風板の懸魚(げぎょ)の両側にある装飾。普通は左右あるが、片方はなくなっていたので復元する。 |
上:六葉と懸魚と鰭。絆創膏みたいな長方形の板は埋木。 |
上:欅板 「だいぶ以前のことですが、風で倒れた庭木を製材してくれと言ったら、製板されてしまいました」とのこと。一文字違いだが、日本語は難しい。それならと、沓脱のスノコと式台に利用することにした。曲りとノタを活かすべくチョークを使って木取りの打ち合わせをしているところ。 |
上:受付式台 上述の欅の式台。沓脱の際の腰かけでもあり、法事の際の受付の台でもあり、飾り棚でもある。 |
上:水路工事 外回りの整備に伴って水路を復活。改修以前は塩ビパイプの配水管が埋め込まれていた。ここへきてコンクリートのU字溝が目の前にあったのでは無粋ではないかとのことで、石積み水路に復元。ついでに延壇を設置することになった。甲州市は御影石の産地だったが、現在は採掘していない。中国産はモダンすぎる。お寺の敷地内や工務店の在庫、近所の檀家さんの畑からも掘り出して古い石を集めで純甲州御影の延壇ができた。 |
上:石橋 水路をまたぐ橋。延段の石を使っていつの間にかできていた。橋と四判石を繋ぐ石の下にあるのは排水パイプ。犬走り周辺の雨水を川に流す。水路にはどこから来たのかカメが一時期棲みついていた。 |
上:水鉢 はるか昔は庫裏の外縁の角にあったもの。外縁が内縁になった際に中庭に置かれたままになっていたもの。 |
上:水性植物の鉢。上述の鉢と上半分がなくなった石燈籠の胴を組み合わせた。 |
上:砂壁サンプル 当然のことながら、室内の明るさにによって色の見え方が変わる。サンプルをいくつか造って、検討しているところ |
上:砂壁検討 色だけ眺めていてもなかなか判断が難しい。最終決定するために実際に掛け軸と一緒に床の間に置いてみる。 |
上:鬼の修理
金属板でできている鬼は再使用する。鬼の材料はカラー鉄板。昔は板金屋さんが叩いたり伸ばしたりして造っていた。今でもできそうだと思うが、実は素材が違う。現在主流はガルバリュウム鋼板であって、カラー鉄板はほとんど流通していない。使うのであればかなりの面積を購入しなければならないのだとか。しかもガルバリュウム鋼板はカラー鉄板のような加工はできないとのこと。 銅板なら美しく仕上がるけれど、素朴な屋根がこの建築の魅力の一つでもある。穴が開いているわけでもないので塗装して使うことになった。 長い間に鬼の取り付け部分がゆがんでいたので直しているところ。 |
上:修繕した鬼 満身創痍でも建ち続けることが宗教建築の意義の一つでもある。鬼の反り返りがちな変形を抑えるためにワイヤーで引っ張っている。裏側もシンプルに覆ってあり、密閉状態ではないが、雨は漏らない。 |
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